2015年08月04日

どこにでもいそうなふつうの主婦が刑務所に入るまで(2)

なにげなく覗いた法廷がなかなかに奥深かったこの事件。
第二回公判と判決言渡しの様子を記します。
前回時間切れのため途中で終わってしまった
被告人質問の続きからはじまります。

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平成27年 道路交通法違反

平成27年6月××日 公判(第二回) 被告人質問

(1)被告人質問
弁護人の主尋問は、被告人が実刑判決を受けて家にいなくなることにより、家族がどれだけ困るかという一点に焦点が当てられた。
被告人によれば、まず義父が困る。右目を失明しており、洗面所をトイレと間違えたりといった症状も出ている。介護保険も使えない現状で、被告人がいなければ世話をする人がまったくいなくなってしまう。
高校に進学したばかりの長男もまだ手間がかかる時期である。長女も被告人の代わりはいないといってくれている。C市に住む被告人の実母のことも心配だ。
無免許運転をしたことについては、一時の感情によるものである。自分が自分じゃないような感じになってふだんはしないことをしてしまった。
終わりが見えないこの生活から逃げ出したいという気持ちもあった。違ったカタチでの生活になってもいいんじゃないか、いっそ刑務所にでも入ってしまえばいいんじゃないかとさえ思った(「いっそ刑務所に」の発言を受けて、反対尋問をした検事自身が焦り、それを察した被告人との間に妙な空気が生まれて、なんとかその場を取り留めたという一幕もあった)。

20150729002tm.jpg被告人

そんな中、同じく介護に追われている友達と一目会って話をすれば、いくらかでも気が紛れるのではないかと思った。その友達は長女の高校時代のママ友で、介護の程度はその友達の方が大変そうだった。友達には悪いと思ったが彼女と会えば、あの人ががんばっているのだから、と自分も楽になれると思った。ちょうど当日、その友達がほしいと言っていた化粧品が届いたので、それを届けがてら一時外出することにした。
移動手段については、自転車、タクシー、バスいずれも時間がかかるので考えなかった。やはり義父が待っていることを考えると長時間家を空けるわけにはいかない。免許は取り消されているが、やむなく自動車で出かけることにした。
検察官は三回目の無免許運転で起訴されているのに、その初公判前にダイハツココアを購入したことをまったく反省の姿勢が見られないと追及する(検察官がこのことを言った瞬間、傍聴席から「そりゃ、だめだよ〜」というため息のようなものがもれてくる)。
被告人はダイハツココア購入については、長女の自動車免許取得を控えてやむを得なかったと説明し、さらに介護がギリギリの状態で大変であったことなどを理由に加え、いっそのこと生活を変えてもいいとなどと支離滅裂な発言をしはじめて、検察官に話を遮られてしまう。
被告人の感情の高ぶりはなおもおさまらず、実父の死に目にも会えない自分がなぜ義父の介護にかかりっきりにならなければならないのか、なぜ自分だけがこうなってしまうのか、義父はふだんは温厚な性格であるが自分にだけはまるでお手伝いさんであるかのような扱いをする、夫は無免許運転をするなと口ではいうが、実際には家庭のことを見てくれないし、介護もしてくれない……と涙を流しながらそれまでの不平や不満を質問への答えにぶつけ続けた。
そんな流れの中にありながら、検察官とのやりとりにおいて被告人は割と冷静な受け答えをする。「いままで四回しか無免許運転をしていないのに、その四回とも警察に検挙されているのはおかしいと思いませんか?」という質問に対しては、「おかしいとは思いません」ときっぱり答え、「前回の無免許運転の裁判でももう運転しませんといいながら今回の裁判となった。今回もう運転しませんと言われても信用できない」という検察官の再度の追及にも「それは信じていただくしかない」と言い切った。
被告人質問後半になってきて、被告人の口調もだいぶ落ち着いてきて、今回裁判になったことを受けて、みんなが変わってくれたことはよかったことだと言う。
家族ともよく話すようになった。転居以来ひととおりのあいさつぐらいしかしてこなかった近所の方とも今回の事情を含め、いろいろと話ができるようになった。自分をお手伝いさん扱いしていた義父も人として見てくれるようになった。生活の質が少しだけあがった。きょうもいま家を空けているが、隣のKさん、もしくは向かいのSさんが義父をみてくれている。
最後に裁判官が、介護への憤りや生活を変えたいといったやけっぱちな感情もありつつ、一方でふだんの生活をキープしたいがゆえに長時間の外出はできないと判断し、それらが自動車の運転につながったという理解で良いか、と被告人に確認を求め、被告人もそれを認めた。

(2)求刑
弁護人は、過去の前科には疑義があり、公訴事実を争えば無罪の可能性もあったと言うべきで、また被告人が家庭をあけることは家族のみんなが困ることでもあるので、再度の猶予ある判決を求めた。
検察官は、前科が多く再犯の可能性も高いことから、懲役七月の実刑を求めた。


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どうやらこの主婦、免許取消を受けた後も
日常的に無免許運転を繰り返したようです。
果たして、今回も執行猶予付きの判決になるのか。
それともこんどこそ実刑になってしまうのか。
公判は二回で結審したので、数週間後に判決言渡しとなりました。

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平成27年7月××日 判決言渡し
(1)判決
懲役六月(実刑)。
裁判官は、被告人は業務上過失致死罪、自動車過失運転傷害罪の後、三度の無免許運転を繰り返し、その後、今回の事件を起こした。義父の介護といった家庭の事情を鑑みても、これは到底正当化できるものではないので、上記のとおり罪を償え、とした。

20150729003saibankan.jpg裁判官

(2)証拠の追加
判決の言い渡しは11時30分からの予定であったが、弁護人からの証拠の追加があり、10分ほど予定外の時間が発生した。判決言い渡しは11時50分であった。


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やはりというべきか、懲役六か月の実刑判決となってしまいました。
無免許運転を繰り返しただけでも刑務所に入れられてしまうんですね。

協力:Oさん
※(1)〜(2)を通じて取材、資料提供等にご協力いただきました。
posted by ひろとも at 00:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 法廷傍聴 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする